インドで見たもの

インドの首都ニューデリー・インディラ・ガンディー国際空港到着後、ホテルまでのバスでインド人のガイドさんが流暢な日本語でインドをこう表現した。「大豪邸が建つ地区の目の前にホームレスが寝ている、暑い時は熱い寒い時は寒い、辛いのもはめちゃ辛い甘いものはめちゃ甘い。このように多様性に富んでいるのがインドの特徴です。」

この言葉インドを理解する上でなるほどと思う一言だった。アーリア系、ドラヴィダ系、モンゴル系など様々な民族、ヒンドゥ(80.5%)、イスラム(13.4%)、キリスト(2.3%)、シーク、仏教、ジャイナなど様々な宗教を信仰する人々が住み、28の州、6の連邦直轄地で形成されるインドには様々な表情がある。
インディラ・ガンディ−国際空港の様子

BOP(ベースオブピラミッド)ビジネスを学ぶためのインドのデリー、ムンバイ、プネーを訪問した。

2010年推定人口約12億2013万人。(2025年に中国を抜き世界一の人口大国になる。26歳以下が人口の半数を占める完全ピラミッド型の人口構成で、2040〜2050年ごろまで人口が増加すると予測されている)面積は日本の約9倍。(329万K㎡)2010年GDPは約1.3兆ドル。(2014年の予想は1.7兆ドル)。新車販売台数は2010年に300万台を突破。(日本は496万台)これらの数字からインドが非常に重要な市場になることは想像に難しくなく世界中の誰もがその潜在能力を認める大国である。【日本貿易振興機構資料参照】

デリーの高速道路の様子。SUZUKIの子会社MARUTISUZUKIは40%程度の市場シェアを獲得している。


インドに向かう飛行機の中、隣の席は韓国人の40代くらいの男性だった。なぜインドに?と質問したところ、自分はSAMSUNGの社員でインドには度々出張しているとの返答だった。インドに到着後、ムンバイの郊外都市ですら、SAMSUNGやLGの広告が見られ、韓国企業のインドに向ける注目度の高さが垣間見れた。売れるまで国に戻ってくるな、海外赴任は片道切符というのがサムスンの流儀だそうで、海外駐在員に求める条件が韓国企業はとてもシビアなようだ。隣の席の男性はさすがに片道切符というわけではないようだがインド各地の代理店を駆けずり回っているそうだ。
デリー郊外の小都市でも目立つSAMSUNGの広告


もちろん日本企業も2010年7月号文藝春秋で松下電器大坪文雄社長がインドの売上を5年間で400億円から2000億円にすると公言しているようにインドへの進出を加速させている。すでにSONYやHONDA、SUZUKIはインドのあらゆるところで人々に親しまれていた。プネーの農村では村人が「HONDA(インドではHEROHONDA)のバイクがあるおかげで移動時間を短縮できた。日本の会社に感謝している。」と話してくれたし、プネーの電化製品売り場のデジタルカメラコーナーではSONYの商品が高いシェアを誇っていた。

街を走るHONDA車

BOP(ベースオブピラミッド)ビジネスについて
BOPビジネスとは主として、途上国の低所得者層を対象(消費者、生産者、販売者のいずれか、またはその組み合わせ)とした持続可能な、現地における様々な社会的課題の解決に資することが期待される新たなビジネスモデル。【経済産業省HP参照

自分がBOPビジネスに興味を持ったのは書店で『ネクスト・マーケット「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 』という本を手にしたことだった。これから中国を中心にアジアで事業を行いたいが、その地で意義のある事業をしなければ長期的な事業はできないと思っている。そんな中現地の人々を尊重した考えを持つBOPビジネスに大変興味を持った。もしこの概念を習得できればどこの国でも事業ができるのではないかと思い読み進めていき、今回のインドツアーにも出かけた。

現地ではインド資本の自動車メーカー、銀行、NGOなどを訪問してBOPビジネスの事例について学んだ。年間所得が3000ドル以下の層のことをBOP層と呼び、世界人口の約72%がそれにあたる。特にインドでは人口の95%がBOP層とされており9億人のBOP市場が広がっている。

事業をする上では、社会性は高いが、儲けることができるのかは考えなければならない。社会性が高いビジネスは儲けにくく、儲けが低いのに社会性が高いビジネスを目指すとなかなか成功しないという事実もある。BOPもまさにそれで、社会性が高い領域であると言え、社内でBOPビジネスに力を入れることに苦言を呈されることも多いそうだ。こちらのレポートは日系企業がどのようにBOPビジネスと向き合うか考える上で大変参考になる。【みずほ政策インサイト『インド企業によるBOPビジネスの展開〜日本企業から見たBOPビジネスとの「違い」〜』

自分がインドでどのような展開をするかはこれからの課題だ。今回のインド渡航を機にインドのパートナー候補が決まり少量ではあるがインドビジネスを始められそうなので少しずつインドでできることを増やし、社会性の高い事業にしていきたい。

自分たちの年代のアジアの国々との向き合い方はどうあるべきかを中国に居ながらよく考える。多くのアジアの国がそれまではコスト削減のための製造現場として立ち位置が強かった。製造現場だと、これをやっておいて、あれをやっておいてでなんとかなるが、消費市場としてアジア各国を捉えると、これを買っておいて、あれを買っておいてという話は通じない。本質的にその地を理解しなければならない。自分たちの時代には本質的にその地の人を理解する能力が求められている

インドでJICA職員の方がBOPビジネスについて語ってくれた。
「NEEDS≠WANTS(ニーズとウォンツは違う)」:その土地その土地で本当に何が必要とされているのか、必要とされているものを企業は提供していく必要がある。
「BOP層は受益者であって顧客ではない」:ただ売りつけることだけ考えていては、事業は成立しない。

その地の人が何を求めていて、自分はそれに対して一緒になって何ができるか、海外市場の開拓なしには日本経済の展望も、企業の発展も期待し得ない時代に生まれた自分達は心して成長するアジアに向き合わなければならない

インドの言語は州によってバラバラだが、ヒンディー語、英語があればなんとか通じる。特に英語があればビジネス上は基本的に問題がなさそうだ。今回ご一緒させていただいた日本人方々は、英語が堪能な方が多かった。まず英語が話せ、こいつとはいろいろ話せそうだとインド人思ってもらえることがインドビジネスの第一条件のように感じた。英語の継続学習の必要性を強く感じている。

約一週間という短いインド滞在だったが、それまでは話題性があるけど未知の大国というのがインドに対するイメージだったが、現地を視察し、インド人とコミュニケーションができこれからも付き合っていきたいと思え、インドと自分の距離感を縮められたと思っている。これからもインドと心して向き合っていきたい。



【インド事業を考える上で参考になる本】
『世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある』
BOPビジネスの事例などが写真つきで紹介されている一冊。何気ないデザインが生活の質を劇的に改善することもあることが分かる。

『世界とつながるビジネス――BOP市場を開拓する5つの方法』
BOPを実勢している企業の実例を知れる一冊。

『ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家』
グラミン銀行創業者のムハマド・ユヌス氏(バングラディッシュ人)がグラミン銀行でマイクロクレジットのサービスを始めるまでの自伝。グラミン銀行のビジネスモデルはインドでも参考にされている。

『ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略』
かなりボリュームがある一冊だが、BOPについて学ぶには最適の一冊。


【インドを理解する上で参考になるサイト】
国際ビジネス情報番組「『世界は今JETRO Global Eye』
日本貿易振興機構が発信する世界の情報を発信する番組。インドや中国特集もあって大変おもしろい。2011年6月4日にはインド特集が予定されている。

『HIWAVEひろしま産業振興機構日記』
ニューデリービジネスサポーター高野一弘氏のレポート。インドの第一線でご活躍される方。インドのことが噛み砕いて分かりやすく紹介されている。


【インドを理解する上で役に立つブログ】
『大学生naotonのインド留学ブログ』理工系大学生として日本で過ごした後、キャリーケース一つでインド・バンガロールに渡った堀川直人氏のブログ。生のインド情報が紹介されている。


インドについてまだまだこれから調べていきます。何かご質問などあればご連絡ください。


続いてバトンはちんむーへ

最近ちんむーから
六本木アカデミーヒルズの「日本元気塾」「アーク都市塾」の塾長として、社会人教育にも尽力されている米倉誠一郎氏のインタビュー『グローバル時代の絶対要件』を教えてもらい大変参考になった。


何やら六本木ヒルズが今熱いらしい!そこで次なるバトンは

『こっそり教える20代たちの六本木ヒルズの使い方』

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